Utokyo faculty development東京大学

  1. 東京大学ファカルティ・ディベロップメント(東大FD) TOP
  2. インタラクティブ・ティーチング
  3. 動画で学ぶ
  4. ストーリーセッション:
  5. ストーリー5.栄養学を教える:一歩一歩学びをつくることの大切さ
インタラクティブ・ティーチング

ストーリーセッション

ストーリー5.栄養学を教える:一歩一歩学びをつくることの大切さ

中原 こんにちは。東京大学の中原です。きょうはお忙しいところ、本当に恐縮なんですけれども、女子栄養大学短期大学部の渋谷まさと先生にお越しいただきました。渋谷先生、どうも、よろしくお願いします。

渋谷 こんにちは。よろしくお願いします。

中原 まず、最初に、渋谷先生のご専門のほうから伺いたいんですが、どうでしょうか。

渋谷 はい。私の専門は生理学というのが専門になります。

中原 生理学。

渋谷 はい。生理的状態っていうのは、人の体が正しく動いてる、それが生理的な状態。生理に対することが病理っていう言葉になってきますので、病理のほうは、明らかに病的な状態、正常に働いてない状態。ですから、もともとどういう仕組み、どういうふうな状態が正常な状態なのか、そこから病理的な状態をも考えていこうという、そういう医療系、医療における基礎分野になってくるわけであります。

中原 先生、お医者さまでらっしゃいますね。

渋谷 そうです、はい。

中原 体の正常な働きとか仕組みに関する学問っていうふうに考えてよろしいですね。

渋谷 そうですね、はい。

中原 先生がお勤めの、女子栄養短期大学は、これはどういった大学というか、何を目指して教育をなさってる大学なんですか。

渋谷 栄養士さんの養成学校であります。2年間、生理学をはじめ、臨床医学、栄養学を学んで、栄養士として社会で活躍してくれています。

中原 ふーん、なるほどね。栄養士さんっていうと、給食とか献立とかを作っている。

渋谷 そうですね、給食の献立を作ったり、食材の調達したり、値段交渉するとかですね、そんなことをやってきてます。

中原 分かりました。じゃあ、ちょっと実際の授業について伺いたいんですが、栄養士さんの授業で、生理学は恐らく必修なんだと思うんですけど

渋谷 はい、必修です。

中原 どういった授業を、普段、なさってますか。

渋谷 はい、授業の科目としては、解剖生理学というふうな科目になってるんですけども、医療系は分かりにくいというところがありますので、とにかく、なるべく(****カノアタリ@00:02:42)かみ砕いてですね、また、イメージが湧くというふうなことになるように、私の頭の中にあるイメージをなるべく、そのまんま、学生さんに伝えたいということに

中原 授業なさって

渋谷 もう、全力投球して

中原 解剖生理学の授業で、恐らく、1年生、2年生とかが受講なさるって感じですよね。それって、何人ぐらいの授業になりますか。

渋谷 1回の授業、まあ、大体50人ぐらい。

中原 50人ですか。

渋谷 はい。授業が展開してるっていう感じですね。

中原 先ほど、なるべくかみ砕くっていう言葉が出てきたんですけれども、なんか、先生はいろいろ、一歩ずつ、一歩ずつっていうコンセプトで、ステップを踏んでいきながら教えてくっていうことをなさってると思うんですけど、例えば、これはどういう学習になるんでしょうか。もし、教材とか見していただければ。

渋谷 はい。例えば心臓。心臓があるとすると、当然、弁を語らなきゃ駄目じゃないですか。

中原 心臓の弁ですね。

渋谷 心臓の弁ですね、はい。で、ご存じのとおり、四つありますから、複雑といえば複雑。いつ開いて、いつ落ちるんだっていうことは、まあ、ややこしいといったらややこしいわけですけど。心臓の弁を語る前にですね、弁っていうのは、そもそも、どういうときに開いて、どういうときに閉じるんだってですね。そこをまず、理解してください。

中原 それは、おうちのほうでですか。

渋谷 おうちでやってもらうってこともできますし、今の時代ですから、コンテンツをネットに載っけて、学生さんの進ちょく状況を管理することも、いくらでもできますし、また、授業に来たときに、じゃあ、きょうはまず、弁を勉強し、それから心臓の弁を勉強しましょうというふうにやっていくこともできますし、ある意味、自由自在ですね。

中原 なるほど。そういう弁の開き方とか閉じ方みたいなものを、何かの教材を使って少しずつやっていくって

渋谷 はい。一つ、お見せさせていただくと。例えばですね、ここに管があります。管がありまして、その管を横から見ている。で、断面、(****カツメン@00:05:00)にして、中が見えてるというふうなこと、想像してください。横から見てますので、ここに縦にパイプが立っていて、そのパイプの中を見てるということにしていただきたいんですけども、そうすると、ここの液面の高さ、これはここの圧の高さということになります。高ければ高いほど圧が高い、低ければ圧が低いということになって、ここに弁がありますけど、ストッパーがありますので、こうは開くけども、逆はいかないという、一方通行の、(****ホウオン@00:05:37)書いてありますけども。じゃあ、この圧って一体何なのか。この圧は、こういうふうに弁を開くことができますが、この弁の手前にある圧、これは弁を開く力だということになるわけでありまして。また逆に、弁の先にある圧は、弁は閉じる圧ということになりますし、両方に圧がかかってることも、当然、多いわけですから、こういう関係であれば、開く手前の圧のほうが強いよ、高いよ。逆にさっきの閉じる圧のほうが強いよというときは、こういう関係だったら弁は閉じてる

中原 結構、一歩一歩ずつですね。

渋谷 そうだよ。要するに、分からないとは言わせない。もし、分かんなかったら、どこが分かんなかったの、それは私が悪いんだから、このイラストが悪いんだから、ぜひ、教えてくださいとですね、学生さんにこっちが土下座してでも教えていただいて。

中原 これ、教材は先生が作られてんですか。

渋谷 私、ならびに私の研究室を中心とした、いろんなグループの仲間がですね

中原 学生さんがですか。

渋谷 学生さんもおりますし、研究室の助手さんなんかもよくやってくれてますし

中原 そうすると、学生さんの目線で、分かんないところが分かりますよね。ここが引っかかるとかっていう。

渋谷 そうなんです。私のグループ、生命科学教育シェアリンググループというふうに名前を付けてんですけども、コンセプトとしては、もちろん、教員として私が知ってること、私が理解していただきたいこと、それを教育の現場にシェアさせていただく。だけども、その知識と同じだけ重要なものは学生さんの意見、学生さんの疑問、学生さんの感想。これも教育の現場においては同等に大事。それを1カ所に集めて、みんなでワイワイやってですね、教員が言ったって駄目なものは駄目、学生さんが言ったことだって、いいものはいいというふうにですね、学問の世界ですから、格好よく言えば上下ないんで。学生さんの意見でも尊重し、分かんないことがあれば、じゃあ、一緒に、どうすれば君が引っかかったところを後輩ができるためには、どうしようか、一緒にやろうよというですね。学生さんと一緒にやってるっていうのは、これはもう、とても楽しいことです。

中原 学生さんが引っかかるとかって、結構、出てくるもんですか。

渋谷 出てきますね。やっぱり。

中原 それは、先生が一人で考えてたのでは、出てこない感じですか。

渋谷 だと思います。やはり、教育の現場に行って、時々はっきりと、そんなんじゃ分かんないよと言ってくれることもありますし、そうでなくても、教室の空気ってあるじゃないですか、なんかこう、こっち、一生懸命、汗かきながら説明したのに、はあ?みたいなですね。はっきりと分からないとは言わなくても、何かこう、困った空気というか。それを拾うというか。キャッチするアンテナというのも、やっぱり教員に必要な、一方的にしゃべって、分からなければあんたたちが悪いんですよというのも、一つのやり方としてある、時には必要であることはあると思うんですけども、そういう、授業の手間として、特に生命科学などを始めて勉強しようという人たちが、こういうところでつまずいてもらっては困る、こういうところでつまずいてしまっては、絶対、医療人にはなれないわけですね。となると、何が何でもここは分かってもらいたいっていうところは、こっちはこういうこと考えてるんだ、私の持ってるイメージはこういうイメージで表現できるんなら、このイメージ分かりましたかということを常にやって、申し上げたとおり、やっぱりそこ、違うんじゃないかって話が時々出てきますから、じゃあ、作り直そうよっていうですね

中原 前に、先生の授業に伺わせていただいたときに、すごく印象的だったのは、研究者って、普段、研究者として話すし、何て言うんでしょうか。分かんない人のことが分かんないっていうか、段差を、例えば、話すレベルのレベルを、すごく高くしてしまう

渋谷 ああ、はい。

中原 でも、先生、おっしゃったひと言が、私は1メートルの階段を100段にして、細かく切っていって、誰もがつまずかないで登っていけるようにしたいとおっしゃってたのか、すごく印象的だったんですけど、そういうことなのかなと

渋谷 ええ、よく覚えていただいて。ありがとうございます。

中原 いえ。

渋谷 そうですね。一歩一歩のコンテンツ作りと関連してると思うんですけども、いきなり心臓の弁、四つも一遍に出てくるとかいうよりも、一つの弁の性質を学びましょうみたいな。というように、ちゃんとステップが非常に小さくできるかなと。ステップが多いだけじゃなくて、一つ一つのステップが小さいというのも、勉強しやすくなってるんじゃないかなというわけですね。

中原 分かりました。あと、先生の授業に一度行かせていただいたときに、もう一つ、印象的だったのは、授業の途中で学生さん同士が教え合いってやってますけど

渋谷 はい、やってます。

中原 これは、なぜ、やってるんですか。

渋谷 先生ごっことかいって、遊んでるんですけども。やっぱり、アクティブラーニング、別に、今、みんなやってるから、それに右にならえという面もなくはないですけども、一つには、私自身、しゃべるっていうのは、やっぱり楽しい。特に、自分の作ったコンテンツをですね、これ見て、これ見てという感じでしゃべるの、楽しいじゃないですか。同じように、やっぱり、人が作ったものかもしんないけど、自分でしゃべるっていうのが、やっぱり、人間、脳を使って、自分の言葉で何かを語るっての、ニュースでこういうこと言ってたっていうことを人に伝えるのも、特に、ああ、そうなの、とか言ってもらえれば、楽しいですし、しゃべることによって、それこそ、アクティブラーニングですけども、より、何となく分かったというレベルから、さらに深く、これは自分のものなんだ、自分はこれが分かったというふうに、もう、このイラストに関しては忘れないというふうなところに持ってけるんじゃないかなということを狙って、なるべく、そういう時間をクイズ解こうとか、空欄がいっぱいある配布物を埋めてこうとかですね。50人の授業の中でも、とにかく参加型といいますか、とにかく、みんな忙しいというふうにしたいなあと。

中原 一般的にね、アクティブラーニングっていうと、学生が話させることというのか、インタラクティブに学生同士が話し合うことみたいに思われてるんですけど、先生のやっておられてるアクティブラーニングの場合って、結局、コンテンツはしっかりと作ってあって、かつ、その中で学生さんが考えてやったり、教え合ったりするっていうところが、うまくブレンドされてて、いいなというふうに思いました。ともすれば、アクティブラーニングって、手法として考えられちゃうと、コンテンツが軽視されちゃうとこってあるじゃないですか。つまり、教えるべき内容。だから、教えるべき内容に関しても、洗練して分かりやすくしていきつつ、でも、一方向で教えるんじゃなくて、双方向なんだよねっていう。なんか、絶妙なバランスなのかなって思いましたけど。

渋谷 ええ。アクティブラーニング。おっしゃるとおり、一つの面としては、問題発見も学生さん、やってくださる。それを解決するのも学生さん、やってくださいっていうのが、一つのカテゴリーとしてある。それを否定するんじゃ、全然、なくって、むしろ、それをやりたい。そういったことを本当にやりたい。だけども、そこに至るまでに、例えば、生命科学ならば、心臓の弁がいつ開いて、いつ閉じてるのか分からなければ、循環系に関して、問題発見も課題発見もできないわけですから。一歩一歩というコンテンツを使って、生命科学の分野に入る。これができなければ、生命科学の人間じゃありませんよというですね、そういう、初学者が入っていく、入りやすさ。そこの部分に、先生ごっこやったり、コンテンツができている、申し訳ない、私が作ったコンテンツ。皆さんに作っていただいたものじゃないかもしんないけども、それを使って、お互いに説明したり、図を埋めてったり、クイズを解いたり。そういったことも、広い意味ではアクティブラーニング。お膳立てのできたアクティブラーニング。そこの部分を一歩一歩、コンテンツと手法を使って、なるべく多くの人に生命科学って面白いじゃん、分かるから面白いじゃないかって言っていただきたいなというですね。

中原 なるほど。学生さんからのインパクトというのか、フィードバックってどうですか。学生さんは結構

渋谷 そうですね、喜んでくださいますね。

中原 そうですか。よかったです。

渋谷 匿名のアンケートやってみても、一歩一歩で作ったコンテンツと、あえて他のコンテンツと比べて、どうですかというようなことを聞いてみたりして見ていると、5段階で4.5とかですね、いただけて。やっぱり、学生さんと一緒に作ってますからね。学生さん、喜んでくれるっていうのは、あるかなと思うんですけども。

中原 先生は、今の教育のやり方に到達する前というのか、教え始めたばっかりのときって、こういうことやってらっしゃったんですか。

渋谷 一番最初は、クイズいっぱい作りました。

中原 ああ、そうですか。

渋谷 やっぱり、図、作るの大変じゃないですか。だから、そんなにできてなくって、昔、ネットもパソコンも、それほど。カラー印刷できるだけでも、オオッとかいう時代もありましたから。最初、やってたのはワープロでクイズいっぱい作って。今の授業が分かったら、これ、解けるはずだけど、どうかね、みたいな。そんなところから始まって。それをデータベース化していったんですけども。その後、このクイズが解けるためには、じゃあ、どう理解してくれたら、これが解けるんだろうか。印象に残るんだろうかっていうふうにして。そういうふうに進んできたっていうですね。

中原 なるほど、そして今に至ってるってことですよね。

渋谷 はい。

中原 ちょっと、最後に一つ、先生に伺いたいことがあるんですけれども。これ、見てらっしゃる方は、近い将来、大学の教員になりたいって方が多くいらっしゃるんですが、先生にとって教えるっていうのはどういうことで、もう一つ、若い学生さんとかに、メッセージがあるんだとしたら、先生はどんな言葉を掛けていただけるかってことなんですが。

渋谷 そうですね、教育ってある意味、おもてなしじゃないかなと思うんですね。

中原 うん。

渋谷 日本の教育レベルが高い、大人の学士力が国際レベルで断トツで高いというデータも、ちょっと前に発表されましたけど、やっぱりこう、日本のおもてなしの心というところも、やっぱり関係あるんじゃないかと私は思ってるんですけどね。なるべく分かりやすく伝えたいという、そういう気持ちというのが、分からなければ、君が悪いんだよという考えは、そのおもてなしの中には入ってないと思うんですけども。それはやっぱり、根底に、私自身の中にもあるんじゃないかなというふうに思ってますし、そういった気持ちで多くの先生たちも教えてくださっている。そういったところが日本の教育力を保ってる一つではないかなと、私は思っております。

中原 じゃ、それに続けと。

渋谷 そうですよね。かといって、今、勉強している大学院の学生さんたちの中には、ここ、違うんじゃないだろうかっていうふうに思っているところもね。ここはちょっと分かりにくいなとか、ここはこういうふうにしてほしいなと思ってるところもあるならば、すぐ、そういった方たちの時代が来ますから、そこを改善してご自身の後輩にやっていただければ、もう、どんどん、今のいい教育がますますよくなっていくのではないかなと思います。

中原 はい、分かりました。それでは、きょう、本当にお忙しいところお越しいただきまして、ありがとうございました。

渋谷 いえいえ、とんでもない。

中原 じゃあ、どうも、これで終わりたいと思います。ありがとうございました。

渋谷 こちらこそ、ありがとうございました。

(了)

    pagetop